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グース・ネック形薔薇水撒水瓶
(18~19世紀|ペルシア)

ちょうどアヒルの首、嘴、胴を想起させるような形の瓶であることから、一般にグース・ネック・ローズ・ウォーター・スプリンクラー(グース・ネック薔薇水撒水瓶の意味)と呼ばれている。イラン産の薔薇水を室内などに撒くための瓶で、この変わった器形は古くからイスラム・グラスなどにあり、13世紀頃にはドイツにも伝わって類似の瓶が作られていた。ドイツでは、それにクットロルフ(悪魔の酒瓶=器形がねじれていて奇形な形に見えるところから、そのように呼ばれた)という名称が与えられていた。この種の撒水瓶は、主としてイランのシラーズ地方で、18~19世紀に作られて、イランの上流社会に流行していた。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

薔薇水撒水瓶
(18~19世紀|ペルシア)

18世紀~19世紀にペルシアで流行した薔薇水を室内などに撒くために作られた瓶で、小さな把手を付けた球形の胴部と煙突形の首部、細長く優雅な曲線で伸び上がった撒水口の先端にはスプリンクラー弁のような翼が装飾され、極めて特色のある器形をしている。ペルシア産として古くから知られていた薔薇水は、アルコール蒸留によって、花などのエッセンシャル・オイルを抽出するようになる17世紀以前の時代では、唯一の香水として、ペルシアから全世界に向けて輸出されていた。したがって、ペルシアでは古くからガラス製の薔薇水撒水瓶が作られていたが、時代の流れの中で、その形式はどんどん変化し、それぞれの時代を特色付ける薔薇水撒水瓶が作り出されていった。その中でもこの18~19世紀の薔薇水撒水瓶は、最もユニークな器形を見せている。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

展示作品の御紹介:薔薇水瓶

薔薇水瓶
(11~12世紀|イラン)

イランで薔薇水が大量に作られるようになったのは、10世紀以降のことで、ヨーロッパや中国向けにも大量に、こうした薔薇水瓶に入れて、輸出されていた。中国、宋代の記録「宋史」や「宋会要」などにも、ガラス瓶に入れられた薔薇水がアラビア人によって宮中に献上されていたことが、しばしば記録されている。首部の膨らみは、薔薇水が一気に流れないように工夫された流れ止めで、今日のガラス瓶の口にもその機能が応用されているものが多い。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

熔着装飾香油瓶
(6~8世紀|シリア)

5世紀に西ローマ帝国が崩壊すると、東地中海のガラス製造技術の水準は徐々に低下していく。装飾の多様性が失われていくローマン・グラスの中で最も頻繁に使用された装飾が、ガラスの粘着性を利用して紐状のガラスを容器に装飾した紐装飾や熔着装飾である。ローマ帝国の支配下にあったシリアでは、水差の首やコップに紐を一重に巻いたものや、紐装飾を把手のように施した壺等が多く制作された。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

デーツ形香油瓶
(1~2世紀|ローマ)
土製又は石製の二つ割の吹き込み型の中に、熔けたガラスを吹き込んで成形したデーツ(なつめやし)の乾燥果実形の香油瓶。デーツから採取した油も香油として使われていたことから、デーツ油を入れる香油壺として使われていたことも考えられよう。デーツの実の乾燥した時の色である、あめ色の美しいガラスで作られているものが多い。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

展示作品の御紹介:人頭瓶

人頭瓶
(1世紀|東地中海沿岸域)

ローマ帝国領内で、ローマ時代に作られたガラス器物をローマン・グラスと呼ぶ。紀元前1世紀に、吹きガラス技法が発明されるとガラス製品の生産が容易になり、急速に各地に伝播した。この頃のガラス器の主要な用途の一つが香油瓶である。当時、香油には良い香りを身にまとい、乾燥から肌を守る他に、皮膚病や頭痛の鎮静効果もあると考えられていた。ローマ時代の香油瓶は雫形等の単純な器形から、作品のような人面形といった複雑な形も作られ、その色も黄や青、紫と多彩であった。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
https://www.hakone-garasunomori.jp/event/exhibition_2024
開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

展示作品の御紹介:長頸瓶

長頸瓶
(1世紀|東地中海沿岸域)

紀元前1世紀のシリアで吹きガラス技法が発明されると、高級品から日用品に至るまで、幅広い種類のガラス器を制作できるようになった。ガラス表面の玉虫色の輝きは、特定の条件がそろった際にみられる、「銀化現象」と呼ばれる長年の風化作用によるもの。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
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開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

黒絵式香油瓶
(紀元前6世紀|ギリシア)

ギリシア土器は、表面に絵付けされる形式によって、時代順に幾何学様式時代(前10~8世紀)、オリエント様式時代(前8~7世紀)、黒絵式様式時代(前6世紀)、赤絵式様式時代(前5~4世紀)などに時代区分されている。この黒絵式香油瓶は、茶色い土器の表面に、動物や人物文様などを黒い影絵のようなシルエットで表現した黒絵式様式時代の作品で、前6世紀のものである。雄ライオンか黒豹のような動物を表現し、鍔広の開口部と把手を付けた典型的な形式の古代ギリシアの香油瓶である。

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開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

イオン交換彩色カット・グラス香水瓶
(1840年頃|ボヘミア)

ガラス原料の中に入っている酸化リチウムと、銅や銀のイオンとを置換して、ガラスの表面を赤や黄色に着色するハイテクニックが、19世紀前半のボヘミアで開発された。この技法は、ガラスにカットやグラヴィール彫刻を施した部分にも着色でき、着色した部分を簡単に削り取ることもできるので、カメオ・グラスのような大変に手間のかかる技法に比べると、極めて便利な着彩法であった。そのため19世紀に入ると、ボヘミアン・グラスの装飾には、このイオン交換着彩法によるものが多くなる。この香水瓶は、イオン交換によって表面に銅赤色を着色し、更にエッチングという酸腐食法によって、銅赤部分を削り落とし、草花人物文様を残して赤色の文様とした典型例である。

特別企画展:香りの装い〜香水瓶をめぐる軌跡〜
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開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

モザイク・グラス香水瓶
(19世紀後半|イタリア|ヴェネチア)
花模様や人面文様などを象嵌した、いわゆるモザイク・グラスの一種で作られたヴェネチア製の香水瓶が19世紀に活躍したフランキーニ一族やモレッティ一族によって作り出された。三点の内両側二点はフランキーニの作品で、中央の人面香水瓶はモレッティの作品であろう。

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開催中:2025年1月13日(祝・月)まで

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